・7月8日
「……お前……私が死ぬまで…戦ってくれないか?」
数秒の沈黙の後、私はかぶりついていた蒸しケーキを落した
私の目の前の人物は依頼人…という扱い
色々複雑な絡み合いがありますが、そのほかの扱いじゃ、友人の知り合いです
『依頼があるからお茶に来てくれないか?』そういわれて行ってお茶を頂いたのはいいものの
こんなとんでもないセリフが飛んでくるとは思っていませんでした
「……は?冗談でしょう?」
殺しの依頼は受けたり、探したりやったりした事はあったけれど依頼人が自分を殺せなんて言う依頼は受けた事も聞いた事もありません
普通はそんな事考えません……いや、考えたことはあっても本当に依頼してはいけない話だと思います
「冗談でこんな事依頼すると思ってるのか?冗談なら何も言わないって」
話を聞くだけで依頼が終わる可能性もあります。
今はイブラシル大陸の戦の終り、次する事に悩める戦士の相談だと思います
そうであることを祈り、私は溜息をつき答えた
「話…聞いてくれるか?」
「……はい」
私の名前はリュウ=クラウド、不死の存在であることをフルに利用できる殺しもする何でも屋です



・7月10日
私は依頼の話を持ちかけられたその日から彼女の依頼の一部を遂行することになった
彼女の荷物の片付けの手伝いをする、それだけだ
依頼人の名前はサリル=エルディア、快活で人当たりがよく、姉御肌
イブラシル戦争に関わる冒険者の一人でパーティーの戦士、戦う事がそれなりに好きな様子で
血のような髪と怖いくらい明るい水色の瞳をした色彩に印象が強い女性です
あんな依頼をする人とはとても思えない人物
「ふぅ……こうしてみるとたった一年とちょっとだけいたのに結構モノがあるねー」
今日は依頼の一部、彼女の住んでいるログハウスを片付けを手伝う事
ざざっと何があるか確認したところ日用品のほかにたくさんの種類の本と装備品がある
「…住まいとはそういうものじゃ…ないですか…?」
「ふぅむ……そうかもしれんね……」
本棚を見ると…医学書、魔術書、身体の構成、呪いとか初歩的なものから専門的なものまで
身体を癒す事、病気を治したり、身体のことに関するものが多い…きっと彼女の事情のせい
「……禁呪本は遺すのヤバイな……。だいたい燃やしておくか」 そう言い彼女は自分の手を切り、己の血を炎に変える
サリルは自らの血を炎に変え自由に操り戦う能力を持つ
リスクはあるが、いい武器であるしあまり見る事のない技だから意表をつくのにもいい。
炎は色んな場面で使えるから便利だ
その体質を得た時にもう一つ得た能力が彼女の全てを決めたようなものだ
彼女は自分の死を知るようになった。
この間までは月に一度、しばらく前…から毎日、残り日数を数えるように赤い花を持つようになったのです
その日は今年9月13日…サリルの31歳目の誕生日
何故だかわからない。
だけどサリルはその日に死ぬ事を疑わない。
そして、それを前提に回りと接していた事を教えられた
彼女は快活でそれを前提にしているとは考えられない
いや、目の前に死があるからこその明るさなのか…?

・7月21日
「はぁ……」
思わず溜息が出る
…納得がいかない。だけど…受けた
「ねーねー。なんでサリルの依頼を完全に受けちゃったのーっ?」
サリルの使い魔が私をゆすり問い詰める声が聞こえる
この使い魔とは昔からの知り合いで彼女が私をこっちに呼んだのだ
「…何故でしょう…ねぇ…」
「もうっ理由がないならなんで受けるのさーっ!」
説得はたくさんした
禁呪を使う、人から離れた能力を使う…
世の理というものを曲げるモノも探せば、生きる術はあるといい続けた
時間はないが、自分も協力すると言った
その説得を彼女は一蹴した
「世の理を曲げて生きてなんになる?皆には悪いが…私はそこまでしたくない。できない」…彼女の言葉が頭から消えない
だからと言って死に急ぐ事はない…とも言った
「私もそう思う…。だけど、これは一つの信仰、みたいなものだから」辛そうな表情と、その立ち居地から決して動きはしないように見える瞳
そう言うサリルを見て、説得するのを諦め、殺す事を選んだ
この人は
いくら言葉を尽くしたって
私が手を出さなくたって
この人は誰かと戦って死ぬのだろう
もしかしたら最後には適当なモンスターに殴りかかって、死ぬ事も最後にはするのかもしれない
そんな事をする事になるなら
何も知らない存在がするより
彼女の話を聞き、事情をある程度知り、頼まれた…私がするのが一番いいんじゃないのかと思った
悲しいし、辛い、意味なんて感じられない
……だけど、選んだ
私は笑って、サリルの使い魔からの追求を誤魔化し
片付けしながらフロゥと戯れる
きっと、これは、サリルの回りの存在には沈黙しておくべきのことなのだろう

・7月23日
「できたら…永久中止に…したいな」
サリルと戦場に向かって歩く途中、足を止めて声をかけてみる
止めるわけはないだろう……そんな思いがあっても…もう一度言いたかった
「今更止めるの…?」
サリルは足を止めて私のほうを見る
「貴女とは戦いたくない。始めたら倒れるまでやらなきゃいけない。アナタは…生きてイブラシルの友人と笑いあえるほうがいい」
サリルの表情が崩れない
だけど、最後の悪あがきだ
お願い、誰か…彼女を止めるための言葉を…教えてください
「戦わずに生きてみませんか?」
今までと変わらない説得の言葉に我ながらうんざりする
彼女の友人、仲間なら…もっといい言葉が浮かぶのだろうか?
もう、戻って呼ぶこともできない
彼女の沈黙に協力したのは私だ
「余命いくらかということだけにおびえながら静かに生きろと?」
溜息をつく彼女は続ける
「……冗談じゃない」
「貴女なら静かにでも楽しみを見出せると思いますが?」
「周りに人がいればな。」
「…ならそうすればいいじゃないですか」
「……確かに、そうするのが一番」
今度は私が溜息を一つ
「でも、選ぶんですよね」
「ま、そうだね……キミ、嫌ならやめてもいいよ?」
私を探るような視線が一瞬感じられる
苦笑いする顔が見えた
「いいチャンスはもったいないけど、強要する気はないからね」
「あはは、悲しいけれど…私もこうする事を選んだつもりですから」
視界が開ける
いつ見つけたのか……人気がない荒地
…立派な荒地すぎて…現実味が沸かない
「心に決めたとはいえ……辛いものは辛いですよね」
「……やるなら構えをとれ」
もう、何も言わない事にした
決めた事は…もう何をいっても変わらないのだろう
私が一番最初に受け止めたサリルの刃は荒く力任せの上手いとはいえない剣捌き
だけど重く、どこか悲しく彼女の全てをこれから伝えようとしているかのような攻撃